夜を鞣(なめ)すTVの中の魔術師(マジシャン)と台風情報乾くペディキュア

マトリクスに 手紙に 乾いた頬に 粒粒を置く 粒粒を置く

夕闇に染まるを待たず寝静まる青にならない信号の青

雨音に何も無い夜の音紛れブラウン管の俺と目合わす

暑い朝の寝袋の穴より覗く既に働く人の横顔

屋根の上ひなたぼこする猫がいや靴だあれ靴猫じゃねえ靴

痒い背中に虫居らず寂しい

ドレッシングつけ忘れられがちな顔という他説明がつかない

汗沁む眼の先陽炎に舞う白 雪の幻影かと思えば灰

そうだよねこれがきみのいちばんの写真右隅心霊微笑む

妻の居る友を見舞い帰るそしてひとり寝込むを天井笑う

破れ傘骨伝う滴を視てゐる何時の間にや地下道

耳澄ます向うも耳澄ましてゐるな受話器姪の声で泣くやあ

「ドレッシングは別売りです」再読す ぬるくなる牛乳を尻目に

温めたパスタ頬張るTVの中 フルシアンテがジーザスに見え

永久という獣に怯え君を抱くこの世全ての眠れぬ夜に

予報です日中は頬撫でる雨夜半より鉄人の足音

黒い夜黒い子供ら黒い銃撃ち 終わる また撃ち また終わる

七人の悪魔超人編開始 五重に聳(そび)えるコタツをリングに

受話器より懐かしき声コンビニの袋の中でアイス溶けつつ

寝る前に見る夢を決め朝起きてその夢を見たことにして生きる

拾円を拾う俺は月を知らない煙突に登れ掃き溜めの犬

コーヒーを淹れる君の背に我は見る壁のポスター湿気てたわむを

風の道 我の無くした片割れと思うて見れば知らぬ靴下

一昨昨日一昨日昨日今日の今はやくしないと汽車に遅れる

さあ倒せ 俺の頭の棒倒せ 早い者勝ちティッシュあげます

煮込み過ぎ腐りし鍋のこの匂い換気扇より空へと放つ

ゴリラー ゴリラゴリラー ゴリラー ゴリラゴリラー 檻の前の子

肩震う風舞う袋を見ていた月も見ていた眼鏡の縁も

草原を歩む駈けずに弱肉の我喰う奴の目見据えて候